末摘花
主人公、ゲンジ十八歳の正月から十九歳の正月までの一年間。 若紫 …… 十一歳 これまでのあらすじ 主人公、光ゲンジは皇帝の息子である。彼の母親は桐壺更衣と呼ばれた、なかなかの美人だった。あまりにも帝が溺愛したため、周りの妾たちから反感を買った桐壺…
(現代語訳) ゲンジの君が二条院に戻ると、まだ大人になりきっていない若紫だが、とても美しかった。「同じ紅でも、こんないとしい色もあるのだな」と見つめた着物は、無地の桜色なのだった。柔らかく着こなして澄ましているのが、可愛いばかりである。昔気…
(現代語訳) 年も暮れゆく。ゲンジの君が、後宮の宿直所にいると、タイフの命婦がやってきた。髪を梳かせたりするには、色っぽい関係でなくて、それでいて冗談を言えるような女が良かったので、タイフの命婦は、もってこいなのであった。タイフの命婦も、話…
(現代語訳) 朱雀院の行幸が近づくと、ミカドの御前で試演などが始まり騒がしくなってくる。その頃、タイフの命婦が後宮に戻ってきた。 「あの人はどうしている」 とゲンジの君は詰め寄った。気の毒には思っているらしい。タイフの命婦は状況を報告して、「…
(現代語訳) ゲンジの君と頭中将は、さっきの琴の音を思い出した。あの粗末な住処も、別世界のようで心に焼き付いている。頭中将に至っては「もし、あんな場所に、凄い可憐な女が寂しく何年も住んでいたとしよう。私と結ばれて好きになってしまう女だったと…
(現代語訳) 今夜は、他に密通する場所があるのだろうか。ゲンジの君は、そわそわと帰ろうとする。 「ミカドが、ゲンジの君は堅物で困る、と勘違いして心配しているから、あたしは可笑しくて。まさか、こんな不純な夜歩きをしているなんて知らないでしょう…
(現代語訳) ゲンジの君は、何度思い出してもあの夕顔の露のように儚く逝った人を忘れられない。年月を経ても悲しく思った。どこを見渡しても気取った面倒な女たちが、互いに牽制し合っているだけなのである。あの無邪気な夕顔を、懐かしく、かけがえのない…