第七十二段
■ 原文
賤しげなる物、居たるあたりに調度の多き。硯に筆の多き。持仏堂に仏の多き。前栽に石・草木の多き。家の内に子孫の多き。人にあひて詞の多き。願文に作善多く書き載せたる。
多くて見苦しからぬは、文車の文。塵塚の塵。
■ 注釈
1 持仏堂
・毎日礼拝する仏壇を置く室。
2 前栽
・庭の植え込みのこと。
3 願文(くわんもん)
・仏に願うことを書いた文。
4 文車
・書物を運ぶための小さい車。
5 塵塚
・ゴミを捨てる場所。
■ 現代語訳
下品に見えてしまうもの。座っている周りに道具がたくさん転がっていること。硯に筆がたくさん陳列されていること。礼拝堂に仏像が多いこと。ガーデニングで石や草花を騒々しくすること。家の中に子供や孫がうようよしていること。人と会うとおしゃべりなこと。自分の自慢をたくさん書いた紙と引き換えに神仏に無理な祈願をすること。
およそ、多くても見苦しくないのは、キャスター付きの本棚に本がたくさんあること。ゴミ箱のゴミ。