2009-03-01から1ヶ月間の記事一覧

第二十二段

■ 本文何事も、古き世のみぞ慕はしき。今様は、無下にいやしくこそなりゆくめれ。かの木の道の匠の造れる、うつくしき器物も、古代の姿こそをかしと見ゆれ。 文の詞などぞ、昔の反古どもはいみじき。たゞ言ふ言葉も、口をしうこそなりもてゆくなれ。古は、「…

第二十三段

■ 原文衰へたる末の世とはいへど、なほ、九重の神さびたる有様こそ、世づかず、めでたきものなれ。 露台・朝餉・何殿・何門などは、いみじとも聞ゆべし。あやしの所にもありぬべき小蔀・小板敷・高遣戸なども、めでたくこそ聞こゆれ。「陣に夜の設せよ」と言…

第二十一段

■ 原文万のことは、月見るにこそ、慰むものなれ。ある人の、「月ばかり面白きものはあらじ」と言ひしに、またひとり、「露こそなほあはれなれ」と争ひしこそ、をかしけれ。折にふれば、何かはあはれならざらん。月・花はさらなり、風のみこそ、人に心はつく…

第二十段

■ 原文某とかやいひし世捨人の、「この世のほだし持たらぬ身に、ただ、空の名残のみぞ惜しき」と言ひしこそ、まことに、さも覚えぬべけれ。 ■ 注釈1 空の名残 ・空から舞ってきて心に残る事象。「嵐のみ時々窓におとづれて明けぬる空の名残をぞ思う」『山家…

第十九段

■ 原文折節の移り変るこそ、ものごとにあはれなれ。「もののあはれは秋こそまされ」と人ごとに言ふめれど、それもさるものにて、今一きは心も浮き立つものは、春のけしきにこそあんめれ。鳥の声などもことの外に春めきて、のどやかなる日影に墻根の草萌えい…

第十八段

■ 原文人は、己れをつゞまやかにし、奢りを退けて、財を持たず、世を貪らざらんぞ、いみじかるべき。昔より、賢き人の富めるは稀なり。唐土に許由といひける人は、さらに、身にしたがへる貯へもなくて、水をも手して捧げて飲みけるを見て、なりひさこといふ…

第十七段

■ 原文 山寺にかきこもりて、仏に仕うまつるこそ、つれづれもなく、心の濁りも清まる心地すれ。 ■ 注釈1 心の濁り ・この世での欲求や煩悩。 ■ 現代語訳山寺にこもって、ホトケ様をいたわっていると「ばかばかしい」と思った気持ちも消え失せて、脳みその汚…

第十六段

■ 原文神楽こそ、なまめかしく、おもしろけれ。 おほかた、ものの音には、笛・篳篥。常に聞きたきは、琵琶・和琴。 ■ 注釈1 笛 ・神楽に使う大和笛。参照:笛 - Wikipedia2 篳篥 ・中国から伝えられた竹の笛。参照:篳篥 - Wikipedia3 琵琶 ・雅楽に使う…

第十五段

■ 原文いづくにもあれ、しばし旅立ちたるこそ、目さむる心地すれ。そのわたり、こゝかしこ見ありき、ゐなかびたる所、山里などは、いと目慣れぬ事のみぞ多かる。都へ便り求めて文やる、「その事、かの事、便宜に忘るな」など言ひやるこそをかしけれ。さやう…

第十四段

■ 原文和歌こそ、なほをかしきものなれ。あやしのしづ・山がつのしわざも、言ひ出でつればおもしろく、おそろしき猪のししも、「ふす猪の床」と言へば、やさしくなりぬ。 この比の歌は、一ふしをかしく言ひかなへたりと見ゆるはあれど、古き歌どものやうに、…

第十三段

■ 原文ひとり、燈のもとに文をひろげて、見ぬ世の人を友とするぞ、こよなう慰むわざなる。 文は、文選のあはれなる巻々、白氏文集、老子のことば、南華の篇。この国の博士どもの書ける物も、いにしへのは、あはれなること多かり。 ■ 注釈1 文選 ・中国南北…

第十二段

■ 原文同じ心ならん人としめやかに物語して、をかしき事も、世のはかなき事も、うらなく言ひ慰まんこそうれしかるべきに、さる人あるまじければ、つゆ違はざらんと向ひゐたらんは、たゞひとりある心地やせん。 たがひに言はんほどの事をば、「げに」と聞くか…

第十一段

■ 原文神無月のころ、栗栖野といふ所を過ぎて、ある山里に尋ね入る事侍りしに、遥かなる苔の細道を踏み分けて、心ぼそく住みなしたる庵あり。木の葉に埋もるゝ懸樋の雫ならでは、つゆおとなふものなし。閼伽棚に菊・紅葉など折り散らしたる、さすがに、住む…

第十段

■ 原文家居のつきづきしく、あらまほしきこそ、仮の宿りとは思へど、興あるものなれ。 よき人の、のどやかに住みなしたる所は、さし入りたる月の色も一きはしみじみと見ゆるぞかし。今めかしく、きらゝかならねど、木立もの古りて、わざとならぬ庭の草も心あ…

第九段

■ 原文 女は、髪のめでたからんこそ、人の目立つべかンめれ、人のほど・心ばへなどは、もの言ひたるけはひにこそ、物越しにも知らるれ。 ことにふれて、うちあるさまにも人の心を惑はし、すべて、女の、うちとけたる寝ヰもねず、身を惜しとも思ひたらず、堪…

第八段

■ 原文世の人の心惑はす事、色欲には如かず。人の心は愚かなるものかな。 匂ひなどは仮のものなるに、しばらく衣裳に薫物すと知りながら、えならぬ匂ひには、必ず心ときめきするものなり。九米の仙人の、物洗ふ女の脛の白きを見て、通を失ひけんは、まことに…

第五段

■ 原文不幸に憂に沈める人の、頭おろしなどふつゝかに思ひとりたるにはあらで、あるかなきかに、門さしこめて、待つこともなく明し暮したる、さるかたにあらまほし。 顕基中納言の言ひけん、配所の月、罪なくて見ん事、さも覚えぬべし。 ■ 注釈1 顕基中納言…

第四段

■ 原文後の世の事、心に忘れず、仏の道うとからぬ、心にくし。 ■ 現代語訳死んでしまった後のことをいつも心に忘れず、仏様の言うことに無関心でないのは素敵なことだ。

第三段

■ 原文万にいみじくとも、色好まざらん男は、いとさうざうしく、玉の巵の当なき心地ぞすべき。 露霜にしほたれて、所定めずまどひ歩き、親の諫め、世の謗りをつゝむに心の暇なく、あふさきるさに思ひ乱れ、さるは、独り寝がちに、まどろむ夜なきこそをかしけ…

第二段

■ 原文いにしへのひじりの御代の政をも忘れ、民の愁、国のそこなはるゝをも知らず、万にきよらを尽していみじと思ひ、所せきさましたる人こそ、うたて、思ふところなく見ゆれ。 「衣冠より馬・車にいたるまで、あるにしたがひて用ゐよ。美麗を求むる事なかれ…

第一段

■ 原文いでや、この世に生れては、願はしかるべき事こそ多かンめれ。御門の御位は、いともかしこし。竹の園生の、末葉まで人間の種ならぬぞ、やんごとなき。一の人の御有様はさらなり、たゞ人も、舎人など賜はるきはは、ゆゝしと見ゆ。その子・うまごまでは…

序文

■ 原文つれづれなるまゝに、日くらし、硯にむかひて、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。 ■ 注釈1 つれづれ ・(形容詞ナリ)何もすることが無くて手持ちぶさたな様子 などと古語辞典には書いてあるの…

はじめに

吾妻利秋と申します。数年前にhttp://www.tsurezuregusa.com/index.htmlというサイトで徒然草の翻訳をしていました。この翻訳はかなりの誤字脱字、仕舞いには行抜けなどがありまして、いつかは校閲しなければならないと思っていました。しかし、ぼくは怠け者…

第七段

■ 原文あだし野の露消ゆる時なく、鳥部山の煙立ち去らでのみ住み果つる習ひならば、いかにもののあはれもなからん。世は定めなきこそいみじけれ。 命あるものを見るに、人ばかり久しきはなし。かげろふの夕べを待ち、夏の蝉の春秋を知らぬもあるぞかし。つく…

第六段

■ 原文わが身のやんごとなからんにも、まして、数ならざらんにも、子といふものなくてありなん。 前中書王・九条大政大臣・花園、みな、族絶えむことを願い給へり。染殿大臣も、「子孫おはせぬぞよく侍る。末のおくれ給へるは、わろき事なり」とぞ、世継の翁…