第三段

■ 原文

万にいみじくとも、色好まざらん男は、いとさうざうしく、玉の巵の当なき心地ぞすべき。

露霜にしほたれて、所定めずまどひ歩き、親の諫め、世の謗りをつゝむに心の暇なく、あふさきるさに思ひ乱れ、さるは、独り寝がちに、まどろむ夜なきこそをかしけれ。

さりとて、ひたすらたはれたる方にはあらで、女にたやすからず思はれんこそ、あらまほしかるべきわざなれ。


■ 注釈

1 玉の巵の当なき心地
・文選、三都賦の序に「玉ノ巵(サカヅキ)当(ソコ)ナキハ宝トイヘドモ用ニ非(アラ)ズ」とある。

参照:文選 (書物) - Wikipedia


■ 現代語訳

どんなことでも要領よくこなせる人だとしても、妄想したりエッチなことを考えない男の子は、穴が空いたクリスタルグラスからシャンパーニュがこぼれてしまうように、つまらないしドキドキしない。

明け方、水滴を身にまとい、よたよたと千鳥足で挙動不審に歩いたりして、おとうさん、おかあさんの言うことも聞かず、近所のひとに馬鹿にされても、何で馬鹿にされているのかも理解できず、どうしようもないことを妄想してばかりいるくせに、なぜだか間が悪く、ムラムラして寝付けずに一人淋しく興奮する夜を過ごしたりすれば、得体の知れない快感に満たされる。

とはいっても、がむしゃらに恋に溺れるのではなくて、女の子からは「節操のない男の子だわ」と思われないように注意しておくのがミソである。