第十三段
■ 原文
ひとり、燈のもとに文をひろげて、見ぬ世の人を友とするぞ、こよなう慰むわざなる。
文は、文選のあはれなる巻々、白氏文集、老子のことば、南華の篇。この国の博士どもの書ける物も、いにしへのは、あはれなること多かり。
■ 注釈
1 文選
・中国南北朝時代、梁の昭明太子によって編纂された詩文集。
2 白氏文集
・唐の文学者、白居易の詩文集。
3 老子
・春秋時代の思想家。または老子によって記された『老子道徳経』のこと。
■ 現代語訳
ひとり淋しく懐中電灯の下で本を広げて、昔の文筆家たちと友情関係を育むことは、安心できて、楽しさのあまり心臓が停止してしまうぐらいに心が穏やかになる。
読書では、昭明太子が選んだのめり込みそうな詩集たちや、白楽天の詩や、老子のありがたい言葉や、荘周の道徳本などがよい。ニッポンの偉い先生方が書いたものだと、古い時代に書かれたものであれば信頼できるものも多い。