第五段
■ 原文
不幸に憂に沈める人の、頭おろしなどふつゝかに思ひとりたるにはあらで、あるかなきかに、門さしこめて、待つこともなく明し暮したる、さるかたにあらまほし。
顕基中納言の言ひけん、配所の月、罪なくて見ん事、さも覚えぬべし。
■ 注釈
1 顕基中納言
・源顕基【みなもとのあきもと】は、源俊賢の長男で後一条天皇に近侍し、天皇の死後に出家した。四十八才で没する。この顕基の言葉は有名で『徒然草』以外の文献でも伝えられている。
■ 現代語訳
「自分は不幸な人間だ」などと悩んだり嘆いたりしている人が、頭の毛をカミソリでつるつるにするように、ものの弾みで悟りきってしまうのではなくて、ただ意味もなく、生きているというよりは死んでいないといった感じで、門を閉め切ってひきこもり、意味もなくだらだらと日々を漂っているのも、ある意味では理想的である。