第二十段

■ 原文

某とかやいひし世捨人の、「この世のほだし持たらぬ身に、ただ、空の名残のみぞ惜しき」と言ひしこそ、まことに、さも覚えぬべけれ。


■ 注釈

1 空の名残
 ・空から舞ってきて心に残る事象。「嵐のみ時々窓におとづれて明けぬる空の名残をぞ思う」『山家集


■ 現代語訳

名もなき路上のアナーキストが「生きているのが馬鹿馬鹿しくなっちゃった僕でも、空を見て放心していると日々の移ろいに名残惜しいなんて思っちゃいます」と言っていたのは、そうだと思った。