2009-03-30から1日間の記事一覧

第二十一段

■ 原文万のことは、月見るにこそ、慰むものなれ。ある人の、「月ばかり面白きものはあらじ」と言ひしに、またひとり、「露こそなほあはれなれ」と争ひしこそ、をかしけれ。折にふれば、何かはあはれならざらん。月・花はさらなり、風のみこそ、人に心はつく…

第二十段

■ 原文某とかやいひし世捨人の、「この世のほだし持たらぬ身に、ただ、空の名残のみぞ惜しき」と言ひしこそ、まことに、さも覚えぬべけれ。 ■ 注釈1 空の名残 ・空から舞ってきて心に残る事象。「嵐のみ時々窓におとづれて明けぬる空の名残をぞ思う」『山家…

第十九段

■ 原文折節の移り変るこそ、ものごとにあはれなれ。「もののあはれは秋こそまされ」と人ごとに言ふめれど、それもさるものにて、今一きは心も浮き立つものは、春のけしきにこそあんめれ。鳥の声などもことの外に春めきて、のどやかなる日影に墻根の草萌えい…

第十八段

■ 原文人は、己れをつゞまやかにし、奢りを退けて、財を持たず、世を貪らざらんぞ、いみじかるべき。昔より、賢き人の富めるは稀なり。唐土に許由といひける人は、さらに、身にしたがへる貯へもなくて、水をも手して捧げて飲みけるを見て、なりひさこといふ…