第二十八段
■ 原文
諒闇の年ばかり、あはれなることはあらじ。
倚廬の御所のさまなど、板敷を下げ、葦の御簾を掛けて、布の帽額あらあらしく、御調度どもおろそかに、皆人の装束・太刀・平緒まで、異様なるぞゆゝしき。
■ 注釈
1 諒闇(りゃうあん)
・天皇が両親の喪に服す期間。
2 倚廬の御所(いろのごしょ)
・諒闇の際に天皇が十三日間潜伏する場所。
3 板敷
・板張りの床を他より低くした場所。
4 葦の御簾(あしのみす)
・竹ではなく葦で造った貧乏くさい簾。
5 御調度(みちょうど)どもおろそかに
・道具のたぐいが安っぽくて。
■ 現代語訳
皇帝がおとうさんおかあさんの喪に服している一年間より、乾いた北風みたく淋しい気持ちになることは無いだろう。
喪に服すために籠もる部屋は、床板を下げて、安物のカーテンを垂らし、貧乏くさい布をかぶせる。家具なども手短な物を選ぶ。そこにいる人々が着ているものや、刀や、刀ヒモが、普段と違ってモノクロなのは、物々しく感じる。