第二十七段
■ 原文
御国譲りの節会行はれて、剣・璽・内侍所渡し奉らるるほどこそ、限りなう心ぼそけれ。
新院の、おりゐさせ給ひての春、詠ませ給ひけるとかや。
殿守のとものみやつこよそにして掃はぬ庭に花ぞ散りしく
今の世のこと繁きにまぎれて、院には参る人もなきぞさびしげなる。かゝる折にぞ、人の心もあらはれぬべき。
■ 注釈
1 御国譲りの節会(みくにゆづりのせちゑ)
・新しい皇帝の即位に当たって、前の皇帝から位を譲るための儀式と官僚へ賜る宴会のこと。
2 剣・璽・内侍所(けん・じ・ないしどころ)
・三種の神器。草薙剣(くさなぎのつるぎ)、八坂瓊勾玉(やさかにのまがたま)、八咫鏡(やたのかがみ)のこと。
■ 現代語訳
新しい皇帝が即位する儀式が行われ、三種の神器の「草薙剣」と「八坂瓊勾玉」と「八咫鏡」が譲渡される瞬間には、強い不安に襲われてしまう。
皇帝を辞めて新院になる花園上皇が、その春に詠んだ歌。
誰彼も他人になった春の日は 掃除のなき庭 花の絨毯
みんな、新しい皇帝につきっきりで、上皇のところに遊びに行く人もいないのだろうが、やっぱり淋しそうだ。こんなときに人は本性を現す。