第七十七段

■ 原文

世中に、その比、人のもてあつかひぐさに言ひ合へる事、いろふべきにはあらぬ人の、よく案内知りて、人にも語り聞かせ、問ひ聞きたるこそ、うけられね。ことに、片ほとりなる聖法師などぞ、世の人の上は、我が如く尋ね聞き、いかでかばかりは知りけんと覚ゆるまで、言ひ散らすめる。


■ 注釈

1 もてあつかひぐさ
 ・噂になったこと。評判になった話題。


■ 現代語訳

世間で、当時の人のブームになった事を話題にしたり、知らなくても良いような分際にも関わらず、岡目八目に内情を熟知していて、人に喋り散らしたり、質問攻めにしたりするのは、頭に来ることだ。特に田舎の坊さんに至っては、世間のゴシップに詳しく、自分の身辺の様に調査して、「なんで、何でお前がそんなことを知っているのだ」と軽蔑されるぐらいの勢いで暴露するようだ。