第七十九段

■ 原文

何事も入りたゝぬさましたるぞよき。よき人は、知りたる事とて、さのみ知り顔にやは言ふ。片田舎よりさし出でたる人こそ、万の道に心得たるよしのさしいらへはすれ。されば、世に恥づかしきかたもあれど、自らもいみじと思へる気色、かたくななり。

よくわきまへたる道には、必ず口重く、問はぬ限りは言はぬこそ、いみじけれ。


■ 注釈

1 片田舎
 ・京都郊外の田舎。


■ 現代語訳

何事に関しても素人のふりをしていれば良い。知識人であれば、自分の専門だからと言って得意げな顔で語り出すことはない。中途半端な田舎者に限って、全ての方面において、何でもかんでも知ったかぶりをする。聞けば、こちらが恥ずかしくなるような話しぶりだが、彼等は自分の事を「偉い」と思っているから、余計にたちが悪い。

自分が詳しい分野の事は、用心して語らず、相手から何か質問されるまでは黙っているに超したことはない。