第百三段

■ 原文

大覚寺殿にて、近習の人ども、なぞなぞを作りて解かれける処へ、医師忠守参りたりけるに、侍従大納言公明卿、「我が朝の者とも見えぬ忠守かな」と、なぞなぞにせられにけるを、「唐医師」と解きて笑ひ合はれければ、腹立ちて退り出でにけり。


■ 注釈

1 大覚寺殿
 ・蓮華峰寺御所。京都市右京区嵯峨にある。

参照:大覚寺 - Wikipedia

2 近習
 ・(後宇多)法皇の側近。

参照:後宇多天皇 - Wikipedia

3 医師忠守
 ・丹波氏。宮内卿。中国からの帰化人の子孫で『源氏物語』の注釈家。

参照:丹波忠守 - Wikipedia

4 侍従大納言公明卿
 ・三条公明。歌人

参照:三条公明 - Wikipedia


■ 現代語訳

大覚寺法皇御所で、側近どもが「なぞなぞ大会」をやっていた。そこへ医者の丹波忠守がやってきた。そこで三条公明が「忠守は、我が国の人間には見えないけど、どうしてか?」という問題を作ったら、誰かが「中国の医者」と答えて笑い合っていた。「からいし」は、中国製の徳利である「唐瓶子」と、没落した「平氏」を掛けた駄洒落なのだが、ドクターは非道くご立腹の様子で、そこから立ち去った。