■ 原文荒れたる宿の、人目なきに、女の憚る事ある比にて、つれづれと籠り居たるを、或人、とぶらひ給はむとて、夕月夜のおぼつかなきほどに、忍びて尋ねおはしたるに、犬のことごとしくとがむれば、下衆女の出でて、「いづくよりぞ」といふに、やがて案内せ…

■ 原文大覚寺殿にて、近習の人ども、なぞなぞを作りて解かれける処へ、医師忠守参りたりけるに、侍従大納言公明卿、「我が朝の者とも見えぬ忠守かな」と、なぞなぞにせられにけるを、「唐医師」と解きて笑ひ合はれければ、腹立ちて退り出でにけり。 ■ 注釈１…

■ 原文尹大納言光忠卿、追儺の上卿を勤められけるに、洞院右大臣殿に次第を申し請けられければ、「又五郎男を師とするより外の才覚候はじ」とぞのたまひける。かの又五郎は、老いたる衛士の、よく公事に慣れたる者にてぞありける。近衛殿著陣し給ひける時、…

■ 原文或人、任大臣の節会の内辨を勤められけるに、内記の持ちたる宣命を取らずして、堂上せられにけり。極まりなき失礼なれでも、立ち帰り取るべきにもあらず、思ひわづらはれけるに、六位外記康綱、衣被きの女房をかたらひて、かの宣命を持たせて、忍びや…