第百二十段

■ 原文

唐の物は、薬の外は、みななくとも事欠くまじ。書どもは、この国に多く広まりぬれば、書きも写してん。唐土舟の、たやすからぬ道に、無用の物どものみ取り積みて、所狭く渡しもて来る、いと愚かなり。

「遠き物を宝とせず」とも、また、「得難き貨を貴まず」とも、文にも侍るとかや。


■ 注釈

1 唐土舟(もろこしぶね)
 ・中国風の舟。日本製でもこのように称した。唐舟とも。

参照:天龍寺船 - Wikipedia

2 遠き物を宝とせず
 ・「遠キ物ヲ宝トセザレバ、則チ、遠キ人格(いた)ル」と『書経』にある。

参照:書経 - Wikipedia

3 得難き貨を貴まず
 ・「得難キノ貨ヲ貴バザレバ、民ヲシテ盗(ぬすみ)ヲ為サザラシム」と『老子』にある。

参照:老子 - Wikipedia


■ 現代語訳

メイドインチャイナの舶来品は、薬の他は全て無くても困らないだろう。中国の本は、この国でも広まっているからコピーすればよい。貿易船が危険な航路を承知の上で、必要のない贅沢品を窮屈そうに満載し、海に揺られて来るとは、ご苦労なこった。

「賢者は遠くの物を宝として欲しがらない」とか「入手困難な物を価値ある物として喜んではならない」などと、古い中国の本にも書いてあるではないか。