第百五十二段

■ 原文

西大寺静然上人、腰屈まり、眉白く、まことに徳たけたる有様にて、内裏へ参られたりけるを、西園寺内大臣殿、「あな尊の気色や」とて、信仰の気色ありければ、資朝卿、これを見て、「年の寄りたるに候ふ」と申されけり。

後日に、尨犬のあさましく老いさらぼひて、毛剥げたるを曳かせて、「この気色尊く見えて候ふ」とて、内府へ参らせられたりけるとぞ。


■ 注釈

1 西大寺
 ・奈良市西大寺町にある現在の真言律宗の本山。

参照:西大寺 (奈良市) - Wikipedia

2 静然上人
 ・復元された西大寺、四番目の長老。

参照:真言律宗 - Wikipedia

3 西園寺内大臣殿
 ・第八十三段の「竹林院入道左大臣殿」の息子で、西園寺実衡(さいおんじさねひら)。

参照:西園寺実衡 - Wikipedia

4 資朝卿(すけとものきやう)
 ・日野資朝中納言となり、後醍醐天皇鎌倉幕府追討のクーデター計画が知れて佐渡島に流された。元弘の乱の勃発により配所で斬られる。

参照:日野資朝 - Wikipedia


■ 現代語訳

西園寺の静然上人は腰が曲がり眉も真っ白だった。何とも尊いオーラを発散させながら宮中にやって来たので、西園寺実衡内大臣は、「何という尊さだ」と羨望の眼差しを向けた。これを見た日野資朝卿が、「ただ老人でヨボヨボなだけです」と言った。

何日か経って、資朝は毛が抜けてヨレヨレになり、醜く年取った犬を連れてきて、「大変尊い姿でございます」と、内大臣にプレゼントした。