第百七十四段

■ 原文

小鷹によき犬、大鷹に使ひぬれば、小鷹にわろくなるといふ。大に附き小を捨つる理、まことにしかなり。人事多かる中に、道を楽しぶより気味深きはなし。これ、実の大事なり。一度、道を聞きて、これに志さん人、いづれのわざか廃れざらん、何事をか営まん。愚かなる人といふとも、賢き犬の心に劣らんや。


■ 現代語訳

スズメ狩りに向いている犬をキジ狩りに使うと、再びスズメ狩りに使えなくなると言う。大物を知ってしまうと小物に目もくれなくなるという摂理は、もっともだ。世間には、やることが沢山あるが、仏の道に身をゆだねることよりも心が満たされることはない。これは、一生で一番大切なことである。いったん仏の道に足を踏み入れたら、この道を歩く人は、何もかも捨てることができ、何かを始めることもない。どんな阿呆だとしても、賢いワンちゃんの志に劣ることがあろうか。