第百八十五段

■ 原文

陸奥守泰盛は、双なき馬乗りなりけり。馬を引き出させけるに、足を揃へて閾をゆらりと越ゆるを見ては、「これは勇める馬なり」とて、鞍を置き換へさせけり。また、足を伸べて閾に蹴当てぬれば、「これは鈍くして、過ちあるべし」とて、乗らざりけり。

道を知らざらん人、かばかり恐れなんや。


■ 注釈

1 城陸奥守泰盛
 ・百八十四段の安達城介義景の三男。父を継ぎ秋田城介になる。霜月騒動を首謀する。

参照:安達泰盛 - Wikipedia
参照:霜月騒動 - Wikipedia


■ 現代語訳

安達泰盛は無双の名ジョッキーだった。厩舎から引かれる馬が障害物をひらりと飛び越えるのを見ると、「この馬は気性が荒い」と言って、鞍を他の馬に載せ換えた。また、脚を伸ばして障害物につまずく馬がいると、「この馬は運動神経が鈍い。事故が起こる」と言い、乗ることはなかった。

乗馬を知らない人は、ここまで用心しないだろう。