2009-07-11から1日間の記事一覧

第百九十二段

■ 原文神・仏にも、人の詣でぬ日、夜参りたる、よし。 ■ 現代語訳神様や仏様のへ参拝は、誰もお参りしないような日の夜がよい。

第百九十一段

■ 原文「夜に入りて、物の映えなし」といふ人、いと口をし。万のものの綺羅・飾り・色ふしも、夜のみこそめでたけれ。昼は、ことそぎ、およすけたる姿にてもありなん。夜は、きらゝかに、花やかなる装束、いとよし。人の気色も、夜の火影ぞ、よきはよく、物…

第百九十段

■ 原文妻といふものこそ、男の持つまじきものなれ。「いつも独り住みにて」など聞くこそ、心にくけれ、「誰がしが婿に成りぬ」とも、また、「如何なる女を取り据ゑて、相住む」など聞きつれば、無下に心劣りせらるゝわざなり。殊なる事なき女をよしと思ひ定…

第百八十九段

■ 原文今日はその事をなさんと思へど、あらぬ急ぎ先づ出で来て紛れ暮し、待つ人は障りありて、頼めぬ人は来たり。頼みたる方の事は違ひて、思ひ寄らぬ道ばかりは叶ひぬ。煩はしかりつる事はことなくて、易かるべき事はいと心苦し。日々に過ぎ行くさま、予て…

第百八十八段

■ 原文或者、子を法師になして、「学問して因果の理をも知り、説経などして世渡るたづきともせよ」と言ひければ、教のまゝに、説経師にならんために、先づ、馬に乗り習ひけり。輿・車は持たぬ身の、導師に請ぜられん時、馬など迎へにおこせたらんに、桃尻に…

第百八十七段

■ 原文万の道の人、たとひ不堪なりといへども、堪能の非家の人に並ぶ時、必ず勝る事は、弛みなく慎みて軽々しくせぬと、偏へに自由なるとの等しからぬなり。芸能・所作のみにあらず、大方の振舞・心遣ひも、愚かにして慎めるは、得の本なり。巧みにして欲し…

第百八十六段

■ 原文吉田と申す馬乗りの申し侍りしは、「馬毎にこはきものなり。人の力争ふべからずと知るべし。乗るべき馬をば、先づよく見て、強き所、弱き所を知るべし。次に、轡・鞍の具に危き事やあると見て、心に懸る事あらば、その馬を馳すべからず。この用意を忘…

第百八十五段

■ 原文城陸奥守泰盛は、双なき馬乗りなりけり。馬を引き出させけるに、足を揃へて閾をゆらりと越ゆるを見ては、「これは勇める馬なり」とて、鞍を置き換へさせけり。また、足を伸べて閾に蹴当てぬれば、「これは鈍くして、過ちあるべし」とて、乗らざりけり…

第百八十四段

■ 原文相模守時頼の母は、松下禅尼とぞ申しける。守を入れ申さるゝ事ありけるに、煤けたる明り障子の破ればかりを、禅尼、手づから、小刀して切り廻しつゝ張られければ、兄の城介義景、その日のけいめいして候ひけるが、「給はりて、某男に張らせ候はん。さ…

第百八十三段

■ 原文人觝く牛をば角を截り、人喰ふ馬をば耳を截りて、その標とす。標を附けずして人を傷らせぬるは、主の咎なり。人喰ふ犬をば養ひ飼ふべからず。これ皆、咎あり。律の禁なり。 ■ 現代語訳人に突撃する牛は角を切り、人に噛みつく馬は耳を切り取って目印に…

第百八十二段

■ 原文四条大納言隆親卿、乾鮭と言ふものを供御に参らせられたりけるを、「かくあやしき物、参る様あらじ」と人の申しけるを聞きて、大納言、「鮭といふ魚、参らぬ事にてあらんにこそあれ、鮭の白乾し、何条事かあらん。鮎の白乾しは参らぬかは」と申されけ…

第百八十一段

■ 原文「『降れ降れ粉雪、たんばの粉雪』といふ事、米搗き篩ひたるに似たれば、粉雪といふ。『たンまれ粉雪』と言ふべきを、誤りて『たんばの』とは言ふなり。『垣や木の股に』と謡ふべし」と、或物知り申しき。昔より言ひける事にや。鳥羽院幼くおはしまし…

第百八十段

■ 原文さぎちやうは、正月に打ちたる毬杖を、真言院より神泉苑へ出して、焼き上ぐるなり。「法成就の池にこそ」と囃すは、神泉苑の池をいふなり。 ■ 注釈1 さぎちやう ・左義長・三毬杖・三毬打・三及打と当て字で書くが、意味は不明。正月の飾りなどを焼く…

第百七十九段

■ 原文入宋の沙門、道眼上人、一切経を持来して、六波羅のあたり、やけ野といふ所に安置して、殊に首楞厳経を講じて、那蘭陀寺と号す。 その聖の申されしは、那蘭陀寺は、大門北向きなりと、江帥の説として言ひ伝えたれど、西域伝・法顕伝などにも見えず、更…

第百七十八段

■ 原文或所の侍ども、内侍所の御神楽を見て、人に語るとて、「宝剣をばその人ぞ持ち給ひつる」など言ふを聞きて、内なる女房の中に、「別殿の行幸には、昼御座の御剣にてこそあれ」と忍びやかに言ひたりし、心にくかりき。その人、古き典侍なりけるとかや。 …

第百七十七段

■ 原文鎌倉中書王にて御鞠ありけるに、雨降りて後、未だ庭の乾かざりければ、いかゞせんと沙汰ありけるに、佐々木隠岐入道、鋸の屑を車に積みて、多く奉りたりければ、一庭に敷かれて、泥土の煩ひなかりけり。「取り溜めけん用意、有難し」と、人感じ合へり…

第百七十六段

■ 原文黒戸は、小松御門、位に即かせ給ひて、昔、たゞ人にておはしましし時、まさな事せさせ給ひしを忘れ給はで、常に営ませ給ひける間なり。御薪に煤けたれば、黒戸と言ふとぞ。 ■ 注釈1 黒戸 ・清涼殿の北廂から弘徽殿までの西向きの戸。ここを黒戸の御所…