第百九十三段

■ 原文

くらき人の、人を測りて、その智を知れりと思はん、さらに当るべからず。

拙き人の、碁打つ事ばかりにさとく、巧みなるは、賢き人の、この芸におろかなるを見て、己れが智に及ばずと定めて、万の道の匠、我が道を人の知らざるを見て、己れすぐれたりと思はん事、大きなる誤りなるべし。文字の法師、暗証の禅師、互ひに測りて、己れに如かずと思へる、共に当らず。

己れが境界にあらざるものをば、争ふべからず、是非すべからず。


■ 現代語訳

知識の乏しい人が、他人を観察して、その人の知能の程度を分かったつもりでいたとしたら、全て見当違いである。

一般人で、碁しか取り柄の無い者が、碁が苦手な賢人を見つけ出し、「自分の才能には及ばない」と決めつけたり、各種の専門家が、自分の専門分野に詳しくないことを知り、「私は天才だ」と思い込むことは、どう考えても間違っている。経ばかり唱えている法師と、座禅ばかりしている法師が、お互いに牽制し、「私の修行の方が徳が深い」と思い合っているのは、どちらも正しくない。

自分とは関係ない世界にいる人と張り合うべきでなく、批判をしてはならない。