第二百十段

■ 原文

「喚子鳥は春のものなり」とばかり言ひて、如何なる鳥ともさだかに記せる物なし。或真言書の中に、喚子鳥鳴く時、招魂の法をば行ふ次第あり。これは鵺なり。万葉集長歌に、「霞立つ、長き春日の」など続けたり。鵺鳥も喚子鳥のことざまに通いて聞ゆ。


■ 注釈

1 喚子鳥
 ・かっこう。『古今集』春上に、「をちこちのたづきも知らぬ山中におぼつかなくも喚子鳥かな」とある。

参照:カッコウ - Wikipedia

2 真言
 ・真言宗における、密教の行法が書かれている書物。

参照:真言宗 - Wikipedia

3 招魂の法
 ・幽体離脱から逃れる方法。

参照:招魂祭 - Wikipedia

4 鵺
 ・ぬえ。トラツグミ。夜に寂しい声で泣くので、不吉な鳥とされていた。

参照:トラツグミ - Wikipedia

5 万葉集長歌
 ・『万葉集』に「霞立つ、長き春日の、、暮れにける わづきも知らず、むらぎもの、心を痛み、ぬえこ鳥 うら泣きをれば ……」、とあるのを指す。

参照:万葉集 - Wikipedia


■ 現代語訳

カッコウは、春の鳥だ」と言うけれど、どんな鳥か詳しく書いてある本はない。ある真言宗の書物に、カッコウが鳴く夜に幽体離脱を逃れる方法が記されている。この鳥はトラツグミのことだ。万葉の長歌には、「霞が立つ春の夜長に」とあって、続けてトラツグミが歌われている。カッコウトラツグミは似ているのだろう。