2009-07-15から1日間の記事一覧

第二百十七段

■ 原文或大福長者の云はく、「人は、万をさしおきて、ひたふるに徳をつくべきなり。貧しくては、生けるかひなし。富めるのみを人とす。徳をつかんと思はば、すべからく、先づ、その心遣ひを修行すべし。その心と云ふは、他の事にあらず。人間常住の思ひに住…

第百二十六段

■ 原文最明寺入道、鶴岡の社参の次に、足利左馬入道の許へ、先づ使を遣して、立ち入られたりけるに、あるじまうけられたりける様、一献に打ち鮑、二献に海老、三献にかいもちひにて止みぬ。その座には、亭主夫婦、隆辨僧正、主方の人にて座せられけり。さて…

第二百十五段

■ 原文平宣時朝臣、老の後、昔語に、「最明寺入道、或宵の間に呼ばるゝ事ありしに、『やがて』と申しながら、直垂のなくてとかくせしほどに、また、使来りて、『直垂などの候はぬにや。夜なれば、異様なりとも、疾く』とありしかば、萎えたる直垂、うちうち…

第二百十四段

■ 原文想夫恋といふ楽は、女、男を恋ふる故の名にはあらず、本は相府蓮、文字の通へるなり。晋の王倹、大臣として、家に蓮を植ゑて愛せし時の楽なり。これより、大臣を蓮府といふ。廻忽も廻鶻なり。廻鶻国とて、夷のこはき国あり。その夷、漢に伏して後に、…

第二百十三段

■ 原文御前の火炉に火を置く時は、火箸して挟む事なし。土器より直ちに移すべし。されば、転び落ちぬやうに心得て、炭を積むべきなり。 八幡の御幸に、供奉の人、浄衣を着て、手にて炭をさゝれければ、或有職の人、「白き物を着たる日は、火箸を用ゐる、苦し…

第二百十二段

■ 原文秋の月は、限りなくめでたきものなり。いつとても月はかくこそあれとて、思ひ分かざらん人は、無下に心うかるべき事なり。 ■ 現代語訳秋の月は、信じられないほど美しい。いつでも月は同じ物が浮かんでいると思って、区別をしない人は、何を考えている…

第二百十一段

■ 原文万の事は頼むべからず。愚かなる人は、深く物を頼む故に、恨み、怒る事あり。勢ひありとて、頼むべからず。こはき者先づ滅ぶ。財多しとて、頼むべからず。時の間に失ひ易し。才ありとて、頼むべからず。孔子も時に遇はず。徳ありとて、頼むべからず。…

第二百十段

■ 原文「喚子鳥は春のものなり」とばかり言ひて、如何なる鳥ともさだかに記せる物なし。或真言書の中に、喚子鳥鳴く時、招魂の法をば行ふ次第あり。これは鵺なり。万葉集の長歌に、「霞立つ、長き春日の」など続けたり。鵺鳥も喚子鳥のことざまに通いて聞ゆ…

第二百九段

■ 原文人の田を論ずる者、訴へに負けて、ねたさに、「その田を刈りて取れ」とて、人を遣しけるに、先づ、道すがらの田をさへ刈りもて行くを、「これは論じ給ふ所にあらず。いかにかくは」と言ひければ、刈る者ども、「その所とても刈るべき理なけれども、僻…

第二百八段

■ 原文経文などの紐を結ふに、上下よりたすきに交へて、二筋の中よりわなの頭を横様に引き出す事は、常の事なり。さやうにしたるをば、華厳院弘舜僧正、解きて直させけり。「これは、この比様の事なり。いとにくし。うるはしくは、たゞ、くるくると巻きて、…

第二百七段

■ 原文亀山殿建てられんとて地を引かれけるに、大きなる蛇、数も知らず凝り集りたる塚ありけり。「この所の神なり」と言ひて、事の由を申しければ、「いかゞあるべき」と勅問ありけるに、「古くよりこの地を占めたる物ならば、さうなく掘り捨てられ難し」と…