2009-05-22から1日間の記事一覧

第百八段

■ 原文寸陰惜しむ人なし。これ、よく知れるか、愚かなるか。愚かにして怠る人のために言はば、一銭軽しと言へども、これを重ぬれば、貧しき人を富める人となす。されば、商人の、一銭を惜しむ心、切なり。刹那覚えずといへども、これを運びて止まざれば、命…

第百七段

■ 原文「女の物言ひかけたる返事、とりあへず、よきほどにする男はありがたきものぞ」とて、亀山院の御時、しれたる女房ども、若き男達の参らるる毎に、「郭公や聞き給へる」と問ひて心見られけるに、某の大納言とかやは、「数ならぬ身は、え聞き候はず」と…

第百六段

■ 原文高野証空上人、京へ上りけるに、細道にて、馬に乗りたる女の、行きあひたりけるが、口曳きける男、あしく曳きて、聖の馬を堀へ落してンげり。聖、いと腹悪しくとがめて、「こは希有の狼藉かな。四部の弟子はよな、比丘よりは比丘尼に劣り、比丘尼より…

第百五段

■ 原文北の屋蔭に消え残りたる雪の、いたう凍りたるに、さし寄せたる車の轅も、霜いたくきらめきて、有明の月、さやかなれども、隈なくはあらぬに、人離れなる御堂の廊に、なみなみにはあらずと見ゆる男、女となげしに尻かけて、物語するさまこそ、何事かあ…