第二十四段

■ 原文

斎宮の、野宮におはしますありさまこそ、やさしく、面白き事の限りとは覚えしか。「経」「仏」など忌みて、「なかご」「染紙」など言ふなるもをかし。

すべて、神の社こそ、捨て難く、なまめかしきものなれや。もの古りたる森のけしきもたゞならぬに、玉垣しわたして、榊に木綿懸けたるなど、いみじからぬかは。殊にをかしきは、伊勢・賀茂・春日・平野・住吉・三輪・貴布禰・吉田・大原野・松尾・梅宮。


■ 注釈

1 斎宮
 ・天皇の即位の際に皇室から選定され、伊勢神宮に奉仕する未婚の姫、女王。

参照:斎宮 - Wikipedia

2 野宮
 ・斎宮に選ばれた姫、女王が身を清めるための建物。京都、嵯峨野にあった。

参照:(1)、斎宮を参照のこと。

3 「経」「仏」など忌みて、「なかご」「染紙」など言ふ
 ・『延喜式』には「凡(およ)ソ、忌詞(いみことば)、内七言、仏ハ中子(なかご)ト称シ、経ハ染紙(そめがみ)ト称シ、塔ハ阿良良岐(あららぎ)ト称シ、僧ハ髪長(かみなが)ト称シ、尼ハ女髪長ト称シ、斎(いもひ)ハ片膳(かたしき)ト称す」とある。

参照:延喜式 - Wikipedia

4 玉垣
 ・神社の周囲を巡る塀のこと。

参照:玉垣 - Wikipedia

5 木綿
 ・楮(こうぞ)の皮を剥いで作った生地。榊の枝に掛けて奉納に使われる。

参照:コウゾ - Wikipedia

6 伊勢・賀茂・春日・平野・住吉・三輪・貴布禰・吉田・大原野・松尾・梅宮
 ・伊勢市伊勢神宮京都市賀茂別雷神社賀茂御祖神社奈良市春日大社京都市平野神社大阪市住吉大社奈良県大神神社京都市貴船神社京都市吉田神社京都市大原野神社京都市松尾神社京都市の梅宮神社。

参照:伊勢神宮 - Wikipedia
参照:賀茂別雷神社 - Wikipedia
参照:賀茂御祖神社 - Wikipedia
参照:春日大社 - Wikipedia
参照:平野神社 - Wikipedia
参照:住吉大社 - Wikipedia
参照:大神神社 - Wikipedia
参照:貴船神社 - Wikipedia
参照:吉田神社 - Wikipedia
参照:大原野神社 - Wikipedia
参照:松尾神社 - Wikipedia
参照:梅宮神社 - Wikipedia


■ 現代語訳

神に仕える斎宮が選定され、伊勢神宮に籠もる前に嵯峨野で身を清めている姿は世界一、優美であるに違いない。「お経」とか「仏様」という忌み言葉を使わず「染めた紙」とか「中子」などと呼び、縁起を担いでいるのは面白い。

どこでも神社というのは、素通りできないほど神がかっている。古びた森の姿が、ただ事ではない様子を呈しているところに、周りに塀を作って、榊の葉に白い布が掛けられている姿は、オーラを感じずにはいられない。そんな神社で、特におすすめスポットは、伊勢神宮、二つの賀茂神社、奈良の春日大社社、京都の平野神社、大阪の住吉大社奈良県桜井市三輪町の大神神社京都市貴船神社、同じく吉田神社大原野神社松尾神社、梅宮神社、などである。