第六十三段

■ 原文

後七日の阿闍梨、武者を集むる事、いつとかや、盗人にあひにけるより、宿直人とて、かくことことしくなりにけり。一年の相は、この修中のありさまにこそ見ゆなれば、兵を用ゐん事、穏かならぬことなり。


■ 注釈

1 後七日(ごしちにち)
 ・一月八日から一週間、国家安泰、五穀豊穣を願って行われる仏事。

参照:真言宗 - Wikipedia

2 阿闍梨(あざり)
 ・衆僧を率いる導師。ここでは「後七日」のリーダーの事。

参照:阿闍梨 - Wikipedia

3 武者(むしゃ)
 ・僧侶を警備する武士。

4 盗人
 ・『四季物語』に、一一二七年のこととある。

5 宿直人(とのゐびと)
 ・警備番。

参照:宿直 - Wikipedia


■ 現代語訳

後七日の儀式の実行委員長である導師が、近衛兵を配備して厳重に警備するのは、いつだったか、儀式の最中、強盗に襲撃されたからである。「一年の計は元旦にあり」と言うぐらい、大切な儀式だが、軍隊に囲まれて開催されれば、軍事国家のようになる。