2009-04-10から1日間の記事一覧

第六十六段

■ 原文岡本関白殿、盛りなる紅梅の枝に、鳥一双を添へて、この枝に付けて参らすべきよし、御鷹飼、下毛野武勝に仰せられたりけるに、「花に鳥付くる術、知り候はず。一枝に二つ付くる事も、存知し候はず」と申しければ、膳部に尋ねられ、人々に問はせ給ひて…

第六十五段

■ 原文この比の冠は、昔よりははるかに高くなりたるなり。古代の冠桶を持ちたる人は、はたを継ぎて、今用ゐるなり。 ■ 注釈1 冠(かむり) ・かんむり。参照:冠 - Wikipedia2 冠桶(かむりをけ) ・冠をしまう箱。 ■ 現代語訳近頃の冠と言えば、昔と比べ…

第六十四段

■ 原文「車の五緒は、必ず人によらず、程につけて、極むる官・位に至りぬれば、乗るものなり」とぞ、或人仰せられし。 ■ 注釈1 車の五緒(くるまのいつゝを) ・牛車のスダレに、左右の紐と、中央の紐と、その間の紐を垂らした帯。その帯を装備した車。参照…

第六十三段

■ 原文後七日の阿闍梨、武者を集むる事、いつとかや、盗人にあひにけるより、宿直人とて、かくことことしくなりにけり。一年の相は、この修中のありさまにこそ見ゆなれば、兵を用ゐん事、穏かならぬことなり。 ■ 注釈1 後七日(ごしちにち) ・一月八日から…

第六十二段

■ 原文延政門院、いときなくおはしましける時、院へ参る人に、御言つてとて申させ給ひける御歌、ふたつ文字、牛の角文字、直ぐな文字、歪み文字とぞ君は覚ゆる恋しく思ひ参らせ給ふとなり。■ 注釈1 延政門院 ・後嵯峨上皇の皇女、悦子内親王。この話は悦子…

第六十一段

■ 原文御産の時、甑落す事は、定まれる事にあらず。御胞衣とゞこほる時のまじなひなり。とゞこほらせ給はねば、この事なし。下ざまより事起りて、させる本説なし。大原の里の甑を召すなり。古き宝蔵の絵に、賎しき人の子産みたる所に、甑落したるを書きたり…

第六十段

■ 原文真乗院に、盛親僧都とて、やんごとなき智者ありけり。芋頭といふ物を好みて、多く食ひけり。談義の座にても、大きなる鉢にうづたかく盛りて、膝元に置きつゝ、食ひながら、文をも読みけり。患ふ事あるには、七日・二七日など、療治とて籠り居て、思ふ…

第五十九段

■ 原文大事を思ひ立たん人は、去り難く、心にかゝらん事の本意を遂げずして、さながら捨つべきなり。「しばし。この事果てて」、「同じくは、かの事沙汰しおきて」、「しかじかの事、人の嘲りやあらん。行末難なくしたゝめまうけて」、「年来もあればこそあ…