第百段

■ 原文

久我相国は、殿上にて水を召しけるに、主殿司、土器を奉りければ、「まがりを参らせよ」とて、まがりしてぞ召しける。


■ 注釈

1 久我相国
 ・久我通光(くがみちみつ)。太政大臣歌人として多くの勅撰和歌集に入集。

参照:久我通光 - Wikipedia

2 殿上
 ・清涼殿の殿上の間。公家や殿上人だけが伺候できる。

参照:清涼殿 - Wikipedia
参照:殿上人 - Wikipedia

3 主殿司(とのもづかさ)
 ・主殿司に属し雑務を受け持つ女官。

参照:主殿寮 - Wikipedia
参照:殿司 - Wikipedia

4 土器(からはけ)
 ・素焼きの器や杯。

5 まがり
 ・不詳。酒や水を飲む器と思われる。


■ 現代語訳

久我の太政大臣が、皇居の関係者以外立ち入り禁止の間で水を飲もうとしたら、女官が焼き物のカップを持ってきた。太政大臣は「柄杓を持ってきなさい」と言って、それで飲んだ。