第百十段

■ 原文

双六の上手といひし人に、その手立を問ひ侍りしかば、「勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり。いづれの手か疾く負けぬべきと案じて、その手を使はずして、一目なりともおそく負くべき手につくべし」と言ふ。

道を知れる教、身を治め、国を保たん道も、またしかなり。


■ 注釈

1 双六
 ・十二本の線を引いた盤上で白黒十二個の石を置き、二つのサイコロを振って出た数だけ石を動かす二人でする遊び。

参照:すごろく - Wikipedia


■ 現代語訳

双六の名人と呼ばれている人に、その必勝法を聞いてみたところ、「勝ちたいと思って打ってはいけない。負けてはならぬと思って打つのだ。どんな打ち方をしたら、たちまち負けてしまうかを予測し、その手は打たずに、たとえ一升でも負けるのが遅くなるような手を使うのがよい」と答えた。

その道を極めた人の言うことであって、研究者や政治家の生業にも通じる。