2009-05-23から1日間の記事一覧

第百十七段

■ 原文友とするに悪き者、七つあり。一つには、高く、やんごとなき人。二つには、若き人。三つには、病なく、身強き人、四つには、酒を好む人。五つには、たけく、勇める兵。六つには、虚言する人。七つには、欲深き人。よき友、三つあり。一つには、物くる…

第百十六段

■ 原文寺院の号、さらぬ万の物にも、名を付くる事、昔の人は、少しも求めず、たゞ、ありのまゝに、やすく付けけるなり。この比は、深く案じ、才覚をあらはさんとしたるやうに聞ゆる、いとむつかし。人の名も、目慣れぬ文字を付かんとする、益なき事なり。何…

第百十五段

■ 原文宿河原といふ所にて、ぼろぼろ多く集まりて、九品の念仏を申しけるに、外より入り来たるぼろぼろの、「もし、この御中に、いろをし房と申すぼろやおはします」と尋ねければ、その中より、「いろをし、こゝに候ふ。かくのたまふは、誰そ」と答ふれば、…

第百十四段

■ 原文今出川の大殿、嵯峨へおはしけるに、有栖川のわたりに、水の流れたる所にて、賽王丸、御牛を追ひたりければ、あがきの水、前板までさゝとかゝりけるを、為則、御車のしりに候ひけるが、「希有の童かな。かゝる所にて御牛をば追ふものか」と言ひたりけ…

第百十三段

■ 原文四十にも余りぬる人の、色めきたる方、おのづから忍びてあらんは、いかゞはせん、言に打ち出でて、男・女の事、人の上をも言ひ戯るゝこそ、にげなく、見苦しけれ。大方、聞きにくゝ、見苦しき事、老人の、若き人に交りて、興あらんと物言ひゐたる。数…

第百十二段

■ 原文明日は遠き国へ赴くべしと聞かん人に、心閑かになすべからんわざをば、人言ひかけてんや。俄かの大事をも営み、切に歎く事もある人は、他の事を聞き入れず、人の愁へ・喜びをも問はず。問はずとて、などやと恨むる人もなし。されば、年もやうやう闌け…

第百十一段

■ 原文 「囲碁・双六好みて明かし暮らす人は、四重・五逆にもまされる悪事とぞ思ふ」と、或ひじりの申しし事、耳に止まりて、いみじく覚え侍り。 ■ 注釈1 双六 ・十二本の線を引いた盤上で白黒十二個の石を置き、二つのサイコロを振って出た数だけ石を動か…

第百十段

■ 原文双六の上手といひし人に、その手立を問ひ侍りしかば、「勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり。いづれの手か疾く負けぬべきと案じて、その手を使はずして、一目なりともおそく負くべき手につくべし」と言ふ。 道を知れる教、身を治め、国を保た…

第百九段

■ 原文高名の木登りといひし男、人を掟てて、高き木に登せて、梢を切らせしに、いと危く見えしほどは言ふ事もなくて、降るゝ時に、軒長ばかりに成りて、「あやまちすな。心して降りよ」と言葉をかけ侍りしを、「かばかりになりては、飛び降るとも降りなん。…