第百十三段

■ 原文

四十にも余りぬる人の、色めきたる方、おのづから忍びてあらんは、いかゞはせん、言に打ち出でて、男・女の事、人の上をも言ひ戯るゝこそ、にげなく、見苦しけれ。

大方、聞きにくゝ、見苦しき事、老人の、若き人に交りて、興あらんと物言ひゐたる。数ならぬ身にて、世の覚えある人を隔てなきさまに言ひたる。貧しき所に、酒宴好み、客人に饗応せんときらめきたる。


■ 現代語訳

四十過ぎのおっさんが、恋の泥沼に填って、こっそりと胸に秘めているのなら仕方がない。でも、わざわざ口に出して、男女のアフェアや、他人の噂を喜んで話しているのは嫌な感じがして、気色が悪い。

ありがちな、聞くに忍びなく、見苦しいことと言えば、年寄りが青二才に分け入ってうけ狙いの物語をすること。有象無象の人間が、著名人を友達のように語ること。貧乏人の分際で宴会を好んで、客を呼びリッチなパーティをすること。