第百四十三段

■ 原文

人の終焉の有様のいみじかりし事など、人の語るを聞くに、たゞ、静かにして乱れずと言はば心にくかるべきを、愚かなる人は、あやしく、異なる相を語りつけ、言ひし言葉も振舞も、己れが好む方に誉めなすこそ、その人の日来の本意にもあらずやと覚ゆれ。

この大事は、権化の人も定むべからず。博学の士も測るべからず。己れ違ふ所なくは、人の見聞くにはよるべからず。


■ 注釈

1 権化
 ・神や仏が現世を救済するために仮の姿で降臨すること。

参照:化身 - Wikipedia


■ 現代語訳

大往生の話を人が語っているのを聞くと、「ただ、静かに取り乱すこともなく息を引き取りました」と言えば良いものを、つまらない人間が、妙に変わった脚色をして、最後の言葉や動作などを勝手に改竄して誉めたりする。死んだ本人にとっては、飛んだ迷惑でしかないだろう。

死という大事件は、神や仏でさえ決定できない。どんなに勉強しても解明できない未知の世界だ。自分さえ良ければ、他人が何を言おうと関係ない。