2009-06-30から1日間の記事一覧

第百五十段

■ 原文能をつかんとする人、「よくせざらんほどは、なまじひに人に知られじ。うちうちよく習ひ得て、さし出でたらんこそ、いと心にくからめ」と常に言ふめれど、かく言ふ人、一芸も習ひ得ることなし。未だ堅固かたほなるより、上手の中に交りて、毀り笑はる…

第百四十九段

■ 原文鹿茸を鼻に当てて嗅ぐべからず。小さき虫ありて、鼻より入りて、脳を食むと言へり。 ■ 注釈1 鹿茸(ろくじょう) ・角化していない鹿の角を乾燥した薬。鎮痛剤、滋養強壮剤として用いる。参照:神農本草経 - Wikipedia ■ 現代語訳精力剤のロクジョウ…

第百四十八段

■ 原文四十以後の人、身に灸を加へて、三里を焼かざれば、上気の事あり。必ず灸すべし。 ■ 注釈1 三里 ・灸を据える時の決まった身体の場所。灸穴。参照:足三里穴 - Wikipedia 参照:禁灸穴 - Wikipedia ■ 現代語訳四十過ぎて性懲りもなく身体に灸を据えた…

第百四十七段

■ 原文灸治、あまた所に成りぬれば、神事に穢れありといふ事、近く、人の言ひ出せるなり。格式等にも見えずとぞ。 ■ 現代語訳「灸の痕が体中にあるのは穢らわしいので、神に仕える行事を遠慮しなくてはならない」という説は、この頃、誰かが言い出したことで…

第百四十六段

■ 原文明雲座主、相者にあひ給ひて、「己れ、もし兵杖の難やある」と尋ね給ひければ、相人、「まことに、その相おはします」と申す。「如何なる相ぞ」と尋ね給ひければ、「傷害の恐れおはしますまじき御身にて、仮にも、かく思し寄りて、尋ね給ふ、これ、既…

第百四十五段

■ 原文御随身秦重躬、北面の下野入道信願を、「落馬の相ある人なり。よくよく慎み給へ」と言ひけるを、いと真しからず思ひけるに、信願、馬より落ちて死ににけり。道に長じぬる一言、神の如しと人思へり。さて、「如何なる相ぞ」と人の問ひければ、「極めて…

第百四十四段

■ 原文栂尾の上人、道を過ぎ給ひけるに、河にて馬洗ふ男、「あしあし」と言ひければ、上人立ち止りて、「あな尊や。宿執開発の人かな。阿字阿字と唱ふるぞや。如何なる人の御馬ぞ。余りに尊く覚ゆるは」と尋ね給ひければ、「府生殿の御馬に候ふ」と答へけり…

第百四十三段

■ 原文人の終焉の有様のいみじかりし事など、人の語るを聞くに、たゞ、静かにして乱れずと言はば心にくかるべきを、愚かなる人は、あやしく、異なる相を語りつけ、言ひし言葉も振舞も、己れが好む方に誉めなすこそ、その人の日来の本意にもあらずやと覚ゆれ…

第百四十二段

■ 原文心なしと見ゆる者も、よき一言はいふものなり。ある荒夷の恐しげなるが、かたへにあひて、「御子はおはすや」と問ひしに、「一人も持ち侍らず」と答へしかば、「さては、もののあはれは知り給はじ。情なき御心にぞものし給ふらんと、いと恐し。子故に…