第百四十六段

■ 原文

明雲座主、相者にあひ給ひて、「己れ、もし兵杖の難やある」と尋ね給ひければ、相人、「まことに、その相おはします」と申す。「如何なる相ぞ」と尋ね給ひければ、「傷害の恐れおはしますまじき御身にて、仮にも、かく思し寄りて、尋ね給ふ、これ、既に、その危みの兆なり」と申しけり。

果して、矢に当りて失せ給ひにけり。


■ 注釈

1 明雲座主(めいうんざす)
 ・「座主」は優れた僧侶で、延暦寺金剛寺醍醐寺などの大寺の住職。「明雲」は、久我大納言顕道の次男。一一八三年の法住寺合戦の際に流れ矢に当たって死ぬ。

参照:明雲 - Wikipedia
参照:座主 - Wikipedia


■ 現代語訳

明雲住職が、人相見に向かって、「私は、もしかして武器関係の災難と関わりがあるだろうか?」と訊ねた。人相見は、「おっしゃるとおり、その相が出ています」と答えた。「どんな相が出ているのだ」と問いつめると、「戦争で怪我の恐れがない身分でありますのに、たとえ妄想でもそのような心配をして訊ねるのですから、これはもう危険な証拠です」と答えた。

やはり、明雲住職は矢に当たって死んだ。