第百七十六段

■ 原文

黒戸は、小松御門、位に即かせ給ひて、昔、たゞ人にておはしましし時、まさな事せさせ給ひしを忘れ給はで、常に営ませ給ひける間なり。御薪に煤けたれば、黒戸と言ふとぞ。


■ 注釈

1 黒戸
 ・清涼殿の北廂から弘徽殿までの西向きの戸。ここを黒戸の御所と呼ぶ。

参照:清涼殿 - Wikipedia

2 小松御門
 ・光孝天皇仁明天皇の第三皇子。

参照:光孝天皇 - Wikipedia


■ 現代語訳

清涼殿の黒戸御所は、光孝天皇が即位した後、かって一般人だった時の自炊生活を忘れないように、いつでも炊事ができるようにした場所である。薪で煤けていたので、黒戸御所と呼ぶのである。