第百八十二段

■ 原文

四条大納言隆親卿、乾鮭と言ふものを供御に参らせられたりけるを、「かくあやしき物、参る様あらじ」と人の申しけるを聞きて、大納言、「鮭といふ魚、参らぬ事にてあらんにこそあれ、鮭の白乾し、何条事かあらん。鮎の白乾しは参らぬかは」と申されけり。


■ 注釈

1 四条大納言隆親卿
 ・藤原隆親。権大納言。料理人の家系に生まれる。

参照:「藤原清隆」を編集中 - Wikipedia

2 乾鮭
 ・鮭の内臓を取り、そのまま乾かしたもの。

参照:鮭とば - Wikipedia


■ 現代語訳

藤原隆親が、鮭トバを天皇の食卓に出したことがある。「このような得体の知れない物を陛下に食べさせるつもりか」と、ケチをつける人がいた。隆親は、「鮭という魚を、差し上げてはならないのであれば問題でもあるが、鮭を乾燥させて何が悪いのだ。鮎も天日干しにして差し上げるではないか」と反論したそうだ。