第二百五段
■ 原文
比叡山に、大師勧請の起請といふ事は、慈恵僧正書き始め給ひけるなり。起請文といふ事、法曹にはその沙汰なし。古の聖代、すべて、起請文につきて行はるゝ政はなきを、近代、この事流布したるなり。
また、法令には、水火に穢れを立てず。入物には穢れあるべし。
■ 参照
2 大師勧請の起請
・「大師」は比叡山延暦寺の開祖、伝教大師最澄。「勧請」は、大師の霊威を迎えること。「起請」とは、神仏と誓約し、もしその誓約を破れば罰を受けることを覚悟している旨を記した文章。
参照:最澄 - Wikipedia
参照:起請文 - Wikipedia
3 慈恵僧正
・良源僧正。十二歳で比叡山に入山し、顕密二教の奥義を究める。五十五歳で第十八代の天台宗座主となり、叡山中興の祖と呼ばれた。
■ 現代語訳
比叡山の「大師最澄との誓約」というのは、良源僧正が書き始めたものである。「誓約書」は法律では取り扱わないものである。昔、聖徳太子の時代には、全て「誓約書」に基づいて行う政治はなかった。近年になり、宗教の匂いがする政治が蔓延するようになった。
また、憲法では火や水にたいしては穢れを認めていない。容器に穢れがあるからだ。