第二百八段
■ 原文
経文などの紐を結ふに、上下よりたすきに交へて、二筋の中よりわなの頭を横様に引き出す事は、常の事なり。さやうにしたるをば、華厳院弘舜僧正、解きて直させけり。「これは、この比様の事なり。いとにくし。うるはしくは、たゞ、くるくると巻きて、上より下へ、わなの先を挟むべし」と申されけり。
古き人にて、かやうの事知れる人になん侍りける。
■ 注釈
1 華厳院
・仁和寺の院家の一つ。
2 弘舜僧正
・東寺の長者で、「第八十二段・第八十四段」の、弘融僧都の師。
■ 現代語訳
お経など、巻物の紐を結ぶのに、上と下からタスキのように交差させて二本の間から紐の先を横に引き出すのは、よくやる方法である。そう巻いてある巻物を、華厳院の弘舜僧正は巻き直させた。「最近流行の嫌な巻き方だ。ぐるぐる巻きにして、上から下へ紐の先を挟んでおけばよい」と、おっしゃる。
年寄りで、こんな事をよく知っている人だった。