第二百十三段

■ 原文

御前の火炉に火を置く時は、火箸して挟む事なし。土器より直ちに移すべし。されば、転び落ちぬやうに心得て、炭を積むべきなり。

八幡の御幸に、供奉の人、浄衣を着て、手にて炭をさゝれければ、或有職の人、「白き物を着たる日は、火箸を用ゐる、苦しからず」と申されけり。


■ 注釈

1 八幡の御幸
 ・天皇の、石清水八幡宮への参拝。

参照:石清水八幡宮 - Wikipedia

2 浄衣
 ・神社参拝をする際の礼服。

3 有職
 ・公家の儀式等の知識と、それに詳しい者。

参照:有職 - Wikipedia


■ 現代語訳

天皇の御前に火を入れる時は、種火を火鉢で挟んではならない。素焼きの器から、直接移すのである。その際、炭が転がらないように、用心のため炭俵を積んでおく。

天皇石清水八幡宮を参拝した時に、お供が白い礼服を着て、いつものように手で炭を注いでいた。それを見た物知りの者が、「白装束の日は、火箸を使っても問題ない」と言った。