第二百三十七段

■ 原文

柳筥に据うる物は、縦様・横様、物によるべきにや。「巻物などは、縦様に置きて、木の間より紙ひねりを通して、結い附く。硯も、縦様に置きたる、筆転ばず、よし」と、三条右大臣殿仰せられき。

勘解由小路の家の能書の人々は、仮にも縦様に置かるゝ事なし。必ず、横様に据ゑられ侍りき。


■ 注釈

1 柳筥(やないばこ)
 ・柳の組木細工で作った箱。二つの足を台に付け、蓋には、烏帽子、冠、お経、書物、硯、筆を載せた。三角に切った柳の木材を紐で結んで作ったのでギザギザの溝がある。

参照:http://www.kanshin.com/keyword/1112407

2 三条右大臣殿仰
 ・右大臣は内大臣の誤りで、三条実重か。太政大臣。その息子、公茂との説もある。

参照:三条実重 - Wikipedia
参照:三条公茂 - Wikipedia

3 勘解由小路の家
 ・書能家、藤原行成の家系。

参照:藤原行成 - Wikipedia


■ 現代語訳

道具箱の蓋の上に物を置く際には、縦に向けたり横に向けたり、物によってそれぞれだ。巻物は、溝に向かって縦に置き、組木の間から紐を通して結ぶ。硯も縦に置くと筆が転がらなくて良い」と三条実重が言っていた。

勘解由小路家の歴代の能書家達は、間違っても硯を縦置きにしなかった。決まって横置きにしていた。