2009-04-01から1ヶ月間の記事一覧

第三十八段

■ 原文名利に使はれて、閑かなる暇なく、一生を苦しむるこそ、愚かなれ。財多ければ、身を守るにまどし。害を賈ひ、累ひを招く媒なり。身の後には、金をして北斗を支ふとも、人のためにぞわづらはるべき。愚かなる人の目をよろこばしむる楽しみ、またあぢき…

第三十七段

■ 原文朝夕、隔てなく馴れたる人の、ともある時、我に心おき、ひきつくろへるさまに見ゆるこそ、「今更、かくやは」など言ふ人もありぬべけれど、なほ、げにげにしく、よき人かなとぞ覚ゆる。疎き人の、うちとけたる事など言ひたる、また、よしと思ひつきぬ…

第三十六段

■ 原文「久しくおとづれぬ比、いかばかり恨むらんと、我が怠り思ひ知られて、言葉なき心地するに、女の方より、『仕丁やある。ひとり』など言ひおこせたるこそ、ありがたく、うれしけれ。さる心ざましたる人ぞよき」と人の申し侍りし、さもあるべき事なり。 …

第三十五段

■ 原文手のわろき人の、はゞからず、文書き散らすは、よし。見ぐるしとて、人に書かするは、うるさし。 ■ 注釈1 手 ・手を働かせてすること。筆跡、文字もその一つ。参照:筆跡 - Wikipedia ■ 現代語訳字が下手くそだけど、何の遠慮もなく当然のように手紙…

第三十四段

■ 原文甲香は、ほら貝のやうなるが、小さくて、口のほどの細長にさし出でたる貝の蓋なり。武蔵国金沢といふ浦にありしを、所の者は、「へなだりと申し侍る」とぞ言ひし。 ■ 注釈1 甲香(かひかう) ・お香の材料になる田螺のへた。「甲」は「貝」の当て字。…

第三十三段

■ 原文今の内裏作り出されて、有職の人々に見せられけるに、いづくも難なしとて、既に遷幸の日近く成りけるに、玄輝門院の御覧じて、「閑院殿の櫛形の穴は、丸く、縁もなくてぞありし」と仰せられける、いみじかりけり。これは、葉の入りて、木にて縁をした…

第三十二段

■ 原文九月廿日の比、ある人に誘はれたてまつりて、明くるまで月見ありく事侍りしに、思し出づる所ありて、案内せさせて、入り給ひぬ。荒れたる庭の露しげきに、わざとならぬ匂ひ、しめやかにうち薫りて、忍びたるけはひ、いとものあはれなり。よきほどにて…

第三十一段

■ 原文雪のおもしろう降りたりし朝、人のがり言ふべき事ありて、文をやるとて、雪のこと何とも言はざりし返事に、「この雪いかゞ見ると一筆のたまはせぬほどの、ひがひがしからん人の仰せらるゝ事、聞き入るべきかは。返す返す口をしき御心なり」と言ひたり…

第三十段

■ 原文人の亡き跡ばかり、悲しきはなし。中陰のほど、山里などに移ろひて、便あしく、狭き所にあまたあひ居て、後のわざども営み合へる、心あわたゝし。日数の速く過ぐるほどぞ、ものにも似ぬ。果ての日は、いと情なう、たがひに言ふ事もなく、我賢げに物ひ…

第二十九段

■ 原文静かに思へば、万に、過ぎにしかたの恋しさのみぞせんかたなき。人静まりて後、長き夜のすさびに、何となき具足とりしたゝめ、残し置かじと思ふ反古など破り棄つる中に、亡き人の手習ひ、絵かきすさびたる、見出でたるこそ、たゞ、その折の心地すれ。…

【よりみち】 伊勢物語 第六十九段

去年訳した『伊勢物語』の一部があるので、ちょっと、よりみち。歌物語は『徒然草』とは違って色っぽいな。 伊勢物語 第六十九段 ■ 原文 むかし、をとこありけり。そのをとこ、伊勢の国に狩の使にいきけるに、かの伊勢の斎宮【さいぐう】なりける人の親、「…

第二十八段

■ 原文諒闇の年ばかり、あはれなることはあらじ。倚廬の御所のさまなど、板敷を下げ、葦の御簾を掛けて、布の帽額あらあらしく、御調度どもおろそかに、皆人の装束・太刀・平緒まで、異様なるぞゆゝしき。 ■ 注釈1 諒闇(りゃうあん) ・天皇が両親の喪に服…

第二十七段

■ 原文御国譲りの節会行はれて、剣・璽・内侍所渡し奉らるるほどこそ、限りなう心ぼそけれ。新院の、おりゐさせ給ひての春、詠ませ給ひけるとかや。殿守のとものみやつこよそにして掃はぬ庭に花ぞ散りしく今の世のこと繁きにまぎれて、院には参る人もなきぞ…

第二十六段

■ 原文風も吹きあへずうつろふ、人の心の花に、馴れにし年月を思へば、あはれと聞きし言の葉ごとに忘れぬものから、我が世の外になりゆくならひこそ、亡き人の別れよりもまさりてかなしきものなれ。されば、白き糸の染まんことを悲しび、路のちまたの分れん…

第二十五段

■ 原文飛鳥川の淵瀬常ならぬ世にしあれば、時移り、事去り、楽しび、悲しび行きかひて、はなやかなりしあたりも人住まぬ野らとなり、変らぬ住家は人改まりぬ。桃李もの言はねば、誰とともにか昔を語らん。まして、見ぬ古のやんごとなかりけん跡のみぞ、いと…

第二十四段

■ 原文斎宮の、野宮におはしますありさまこそ、やさしく、面白き事の限りとは覚えしか。「経」「仏」など忌みて、「なかご」「染紙」など言ふなるもをかし。すべて、神の社こそ、捨て難く、なまめかしきものなれや。もの古りたる森のけしきもたゞならぬに、…