空蝉

空蝉の帖 | UTSYUSEMI

主人公、ゲンジ十七歳の夏である。 ■ これまでのあらすじ ミカドから寵愛をうけた桐壺更衣だが、玉のように清らかな御子を出産すると、いじめの心労からか逝去してしまう。この御子が主人公のゲンジである。彼は、この世の人間とは思えぬ美貌の持ち主なだけ…

空蝉の帖 五 ゲンジの君の手紙に煩悶する空蝉

(現代語訳) ゲンジの君は、弟を車の後ろへ乗せて二条院に帰った。昨夜の顛末を物語って、「お前は子供だ」と口を酸っぱくする。空蝉の仕打ちを爪弾きにして、恨み節だ。弟はやりきれず、黙り込むしかなかった。 「こんなに嫌われているんだから、自己嫌悪…

空蝉の帖 四 ゲンジの君、夜明けの退散

(現代語訳) ゲンジの君は、近くに寝ている弟を揺り起こす。弟は、はらはらしながら寝ていたので、すぐに起き上がった。戸をそっと押し開けると、年寄った女官の声がして「あら、どなた?」と大声を張り上げたのだった。弟は「うるせえな」と思いつつ「僕だ…

空蝉の帖 三 空蝉の逃亡。ゲンジの君、軒端の荻を襲う

(現代語訳) 若い軒端の荻は、警戒もせずに「すやすや」と眠っている。その部屋に人の気配と、甘い芳香が広がった。空蝉が顔を持ち上げると、夏服を脱いで吊した仕切りの裂け目に、暗闇にまみれて匍匐しながら近寄ってくる変態の影が浮き彫りになっているの…

空蝉の帖 二 ゲンジの君、空蝉と軒端荻を覗く

(現代語訳) 入ってくるのが子供なので警備員も知らん顔だ。出迎えもしないから余裕で侵入できた。弟はゲンジの君を東側の入り口付近に立たせ、自分は南側の隅の部屋から高らかに戸を叩いて入って行った。室内の女官が「まあ、外から丸見えじゃない」とたし…

空蝉の帖 一 ゲンジの君、煩悶す

(現代語訳) ゲンジの君は寝付けない。 「ここまで女にコケにされたのは初めてだ。今夜は恋愛の厳しさを知ったよ。死にたくなっちゃった」 とぼやくので、弟も泣けてきた。その様子がとても可愛い。ゲンジの君は、弟を手探って撫でてやる。小さく華奢な体と…