桐壺
(現代語訳) ゲンジが元服し大人になると、ミカドは以前のように簾の内に入れなくなった。ゲンジの君は演奏会があれば、藤壺女御の琴に自分の笛の音を重ねて無言の会話を楽しみ、ほのかに漏れる声を聞いて心を慰めた。そして、藤壺女御のぬくもりを感じられ…
(現代語訳) この愛らしいわらべスタイルも見納めかと思えば勿体ないが、十二歳になると元服である。ミカド自ら指揮を取り、元服式の限りを尽くした。去年の春に皇太子の元服式が紫宸殿であったが「それにも負けるな」との命令だ。 「役所が祭礼の準備や食…
(現代語訳) 季節が巡り、年月を経ても、ミカドは御息所を忘れられない。取り巻きたちは「ミカドの心の隙間を埋めよう」と、それなりの女性を連れてくるのだが「あの人の代わりは、この世にいないのだ」と言って、誰とも会いたがらなかった。そんな折、「先…
(現代語訳) あの北ノ方は、「何を慰めに生きていけばよいのか」と塞ぎ込み「娘のいるところを訪ねたい」と祈った。そして、願いが叶ったのかポックリと逝った。ミカドは、これを深く悔やむ。若君も六歳になったので、今度は何が起こったか理解し、悲しくて…
後宮に戻るとミカドは未だ眠れずにいる。それを見た命婦は可哀想に思う。屋敷の前にある鉢植えが生々しく咲き乱れ満開なのを見つめ、気を許した四五人の女を侍らせて、しんみりと物語などしている。この頃では宇多天皇が書いた長恨歌の絵に伊勢物語だとか紀…
(現代語訳) 台風が通り抜けた後の夕暮れは肌寒く、いつもより御息所が偲ばれる。ミカドはユゲイの命婦という女官を実家に向かわせた。出発の頃には夕方の月が、気持ちよさそうに浮かび、本人は思いに耽っている。「こんな晩は演奏会をしたものだ」と浮かぶ…
(現代語訳) その年の夏、ミカドの子を産んだお姫様は御息所と呼ばれるようになった。御息所は体調が芳しくなく実家に帰りたいのだが、ミカドが許してくれない。ここのところ病気ばかりしているので「いつものことだ」と思っているミカドは「もう少しここで…
(現代語訳) そんな中、お姫様とミカドは前世から約束でもしていたのだろうか、この世の人間とは思えないほど汚れなく、玉のような男の子が誕生した。ミカドは早く息子に会いたくて仕方なく、急いで呼んで来させると、あり得ない美貌の赤ちゃんなのだ。第一…
(現代語訳) あるミカドの時代の話である。女御だとか更衣などと呼ばれている人々が、たくさん後宮に暮らしている中に、どうでもよい身の上ではあったが、誰よりもミカドから愛されていたお姫様がいた。 はじめから「私はシンデレラ」と、勘違いしていたお…