夕顔

夕顔の帖 | YUHGA0

主人公、ゲンジ十七歳の夏から十月までのことである。 六条御息所 …… 二十四歳 夕顔 …… 十九歳 葵上 …… 二十一歳 ■ これまでのあらすじ ミカドから寵愛をうけた桐壺更衣だが、玉のように清らかな御子を出産すると、いじめの心労からか逝去してしまう。この御…

夕顔の帖 十四 空蝉、伊予に下る

(現代語訳) 伊予のスケは十月の初日に任地へと旅だった。ゲンジの君は「女官たちも一緒に旅立つのだろう」と心づくしのはなむけをする。他にも、こっそりと手の込んだ細工を施した櫛や扇を数多く、道中で奉納する手間をかけさせた祓え幣を贈り、あの薄い衣…

夕顔の帖 十三 夕顔の四十九日

(現代語訳) 夕顔の四十九日の法要は人目を憚って、比叡山の法華堂で行われた。簡単な式ではなく、死装束からはじめ、必要な物は全て入念に揃えて経文を唱えさせた。経や仏の飾りも格別である。コレミツの兄の阿闍梨は、徳の高い人なので立派に取り仕切った…

夕顔の帖 十二 空蝉、ゲンジの君を見舞う

(現代語訳) あの伊予のスケの家の小君、空蝉の弟がゲンジの君の所へ参上することはあったが、以前のような伝言はもうない。空蝉は「嫌な女だと思って相手にしなくなったのだわ」と思えば後ろめたかった。そんな折、ゲンジの君の病を聞いて、さすがに溜息が…

夕顔の帖 十一 夕顔の正体

(現代語訳) 九月の二十日を過ぎると、ゲンジの君の病は完治した。すっかりやつれてしまったのだが、それがずいぶんとセクシーなのである。空気ばかり見つめながら、声を出して泣き出すので、その姿を見た女官などは、「化け物に取り憑かれたのかも知れない…

夕顔の帖 十 ゲンジの君、夕顔の亡骸と対面する

(現代語訳) 日が落ちてからコレミツが二条院に来た。かくかくしかじかの触穢があると説明してあり、来る人も庭先で立ったまま用事を済まし、人気が少ない。ゲンジの君はコレミツを呼んで、 「どうだった? 手遅れだったのか?」 と言ったまま袖を顔に押し…

夕顔の帖 九 コレミツ、夕顔の亡骸を処置する

(現代語訳) 真夜中が過ぎたのだろう。風が少し強く吹きはじめた。一層と松の木が響くのが、森の奥から聞こえてくる。妖しい鳥がガラガラと鳴いているのは「梟だろう」と思った。よくよく反省してみると、どこからとも遠い不気味な場所で、人の声もせず、「…

夕顔の帖 八 夕顔、もののけに襲われる

(現代語訳) 空が暗くなってゲンジの君がうとうとしていると、枕元にかなりの美人が座っているのを確認した。 「私はこんなにあんたを愛しているのに、放ったらかしにして、こんなわけのわからない女を連れて入れ込んでいるのが気に入らない」 と金切り声を…

夕顔の帖 七 コレミツの嫉妬

(現代語訳) ゲンジの君は太陽が天辺に昇る頃に目覚めた。格子の扉を跳ね上げる。荒廃した庭には人気がなく見渡しが良い。遠くの古ぼけた雑木林が不気味である。近くの草木も鑑賞に堪えうる物ではなく、秋野の野原が広がっていた。池も水草で覆われていて、…

夕顔の帖 六 ゲンジの君、十五夜に夕顔を連れ去る

(現代語訳) 十五夜の満月の光が隙間だらけの屋根からこぼれ落ち、ゲンジの君には見慣れない住居の様子が珍しくて仕方なかった。やがて夜明け近くになると、隣の家々から目を覚ました貧乏人の声がする。 「ああ、寒い。今年は商売あがったりだ。このままじ…

夕顔の帖 五 コレミツの調査報告

(現代語訳) 一方、コレミツが引き受けた隣邸の偵察だが、ある程度わかったとみえて報告があった。 「正体はさっぱりわかりません。人目を警戒して潜伏しているようですが、退屈のあまり、南側の跳ね上げ扉のある部屋に出てくることがあります。車の音が聞…

夕顔の帖 四 ゲンジの君、六条御息所を訪問する

(現代語訳) 秋になった。自分が悪いに違いないのだが、ゲンジの君は心がモヤモヤすることがたくさんあって、左大臣の御殿にはご無沙汰がちになっていたので、先方は納得できないようだ。六条大路近くの人も、はじめは近寄りがたかったゲンジの君だが、いざ…

夕顔の帖 三 伊予に下る空蝉、心乱れるゲンジの君

(現代語訳) ゲンジの君は、あの空蝉の異常なまでの冷たさを、この世の女ではないように思っていた。無抵抗な女ならば、忸怩たる火遊びをしてしまったと諦めることもできただろう。ゲンジの君は「このまま引き下がれるわけはない」と負け惜しみから、空蝉を…

夕顔の帖 二 コレミツ、お隣を調べる

二 コレミツ、お隣を調べる (現代語訳) 「閑職の地方役人の家だそうです。主人は地方へ単身赴任しているそうで、若い遊び好きな妻がいるようですね。その姉妹たちが後宮に仕えているので出入りしているのだと言ってました。留守番の男でしたので、込み入っ…

夕顔の帖 一 ゲンジの君、病気の乳母を見舞う。夕顔との出会い

(現代語訳) ゲンジの君が六条大路近くの恋人と密会を繰り返していた頃の話である。大弐のメノトが重病で尼になったと聞いたので、後宮から六条への行き掛けに見舞おうと五条を訪ねた。車を入れる門が閉まっているので、家来に命じて大弐のメノトの息子であ…