帚木の帖 三 左馬のカミの女性論(一)

(現代語訳) 「成り上がり者が偉くなっても、元の血筋が悪ければ世間の人はよく思わないよ。反対に、よっぽどの血筋でもコネクションがなくて、時の流れにさらわれた人だったら、どんなに偉そうにしていても生活は破綻しているね。こんな人たちは中流階級と…

帚木の帖 二、雨夜の品定め。頭中将の女性階級論。

(現代語訳) 長々と雨が降り続く静寂な夜、後宮を訪ねる人も少なくてゲンジの君の部屋も微睡みかけていた。ゲンジの君が灯りを近くに寄せて読書をしていると、中将が近くの棚にある色とりどりの手紙を引き出して覗きたがる。 「読まれてもよいものなら見せ…

帚木の帖 一、ゲンジの君の性格。頭中将との友情。

(現代語訳) 「光るゲンジ」と名前だけが一人歩きした。出る杭は打たれるのが世の常だが、恥の上塗りをしないよう、細心の注意を払った女たらしぶりまで伝説に仕立て上げ、後世に伝える口軽もいる。しかし、ゲンジの君は常に人目を気にし、神妙な顔で用心し…

桐壺の帖 九、桐壺更衣の郷里改築。

(現代語訳) ゲンジが元服し大人になると、ミカドは以前のように簾の内に入れなくなった。ゲンジの君は演奏会があれば、藤壺女御の琴に自分の笛の音を重ねて無言の会話を楽しみ、ほのかに漏れる声を聞いて心を慰めた。そして、藤壺女御のぬくもりを感じられ…

桐壺の帖 八、ゲンジの元服と結婚。藤壺女御への淡い恋心。

(現代語訳) この愛らしいわらべスタイルも見納めかと思えば勿体ないが、十二歳になると元服である。ミカド自ら指揮を取り、元服式の限りを尽くした。去年の春に皇太子の元服式が紫宸殿であったが「それにも負けるな」との命令だ。 「役所が祭礼の準備や食…

桐壺の帖 七、藤壺女御の入内。

(現代語訳) 季節が巡り、年月を経ても、ミカドは御息所を忘れられない。取り巻きたちは「ミカドの心の隙間を埋めよう」と、それなりの女性を連れてくるのだが「あの人の代わりは、この世にいないのだ」と言って、誰とも会いたがらなかった。そんな折、「先…

桐壺の帖 六、北ノ方の死。ゲンジの事始め。ゲンジと占い師。

(現代語訳) あの北ノ方は、「何を慰めに生きていけばよいのか」と塞ぎ込み「娘のいるところを訪ねたい」と祈った。そして、願いが叶ったのかポックリと逝った。ミカドは、これを深く悔やむ。若君も六歳になったので、今度は何が起こったか理解し、悲しくて…

桐壺の帖 五、帰ってきた命婦の報告。

後宮に戻るとミカドは未だ眠れずにいる。それを見た命婦は可哀想に思う。屋敷の前にある鉢植えが生々しく咲き乱れ満開なのを見つめ、気を許した四五人の女を侍らせて、しんみりと物語などしている。この頃では宇多天皇が書いた長恨歌の絵に伊勢物語だとか紀…

桐壺の帖 四、靫負の命婦、母北ノ方を見舞う。

(現代語訳) 台風が通り抜けた後の夕暮れは肌寒く、いつもより御息所が偲ばれる。ミカドはユゲイの命婦という女官を実家に向かわせた。出発の頃には夕方の月が、気持ちよさそうに浮かび、本人は思いに耽っている。「こんな晩は演奏会をしたものだ」と浮かぶ…

桐壺の帖 三、桐壺更衣死す。そして葬送。

(現代語訳) その年の夏、ミカドの子を産んだお姫様は御息所と呼ばれるようになった。御息所は体調が芳しくなく実家に帰りたいのだが、ミカドが許してくれない。ここのところ病気ばかりしているので「いつものことだ」と思っているミカドは「もう少しここで…

桐壺の帖 二、主人公ゲンジの誕生。相も変わらず桐壺更衣が迫害される。

(現代語訳) そんな中、お姫様とミカドは前世から約束でもしていたのだろうか、この世の人間とは思えないほど汚れなく、玉のような男の子が誕生した。ミカドは早く息子に会いたくて仕方なく、急いで呼んで来させると、あり得ない美貌の赤ちゃんなのだ。第一…

桐壺の帖 一、桐壺更衣、ミカドから愛され周囲から嫉まれる。

(現代語訳) あるミカドの時代の話である。女御だとか更衣などと呼ばれている人々が、たくさん後宮に暮らしている中に、どうでもよい身の上ではあったが、誰よりもミカドから愛されていたお姫様がいた。 はじめから「私はシンデレラ」と、勘違いしていたお…

つれづれぼっと

インターネットが怖いぼくですが、昨日からネットデビューすることにしました。http://twitter.com/tsurezure_bot手始めにtwitterのロボットを作ってみました。よくわかりもしないまま作ったので、心配なのですが、もしよかったらfollowしてください。

脱稿

『徒然草』のホームページをリニューアルしました。徒然草(吉田兼好著・吾妻利秋訳)このブログ(?)は、これで終了ですが、これからもどうぞよろしくおねがいします。

跋文

■ 原文底本 跋文這両帖、吉田兼好法師、燕居之日、徒然向暮、染筆写情者也。頃、泉南亡羊処士、箕踞洛之草廬、而談李老之虚無、説荘生之自然。且、以晦日、対二三子、戯講焉。加之、後将書以命於工、鏤於梓、而付夫二三子矣。越、句読・清濁以下、俾予糾之。…

第二百四十三段

■ 原文八つになりし年、父に問ひて云はく、「仏は如何なるものにか候ふらん」と云ふ。父が云はく、「仏には、人の成りたるなり」と。また問ふ、「人は何として仏には成り候ふやらん」と。父また、「仏の教によりて成るなり」と答ふ。また問ふ、「教へ候ひけ…

第二百四十二段

■ 原文とこしなへに違順に使はるゝ事は、ひとへに苦楽のためなり。楽と言ふは、好み愛する事なり。これを求むること、止む時なし。楽欲する所、一つには名なり。名に二種あり。行跡と才芸との誉なり。二つには色欲、三つには味ひなり。万の願ひ、この三つに…

第二百四十一段

■ 原文望月の円かなる事は、暫くも住せず、やがて欠けぬ。心止めぬ人は、一夜の中にさまで変る様の見えぬにやあらん。病の重るも、住する隙なくして、死期既に近し。されども、未だ病急ならず、死に赴かざる程は、常住平生の念に習ひて、生の中に多くの事を…

第二百四十段

■ 原文しのぶの浦の蜑の見る目も所せく、くらぶの山も守る人繁からんに、わりなく通はん心の色こそ、浅からず、あはれと思ふ、節々の忘れ難き事も多からめ、親・はらから許して、ひたふるに迎へ据ゑたらん、いとまばゆかりぬべし。世にありわぶる女の、似げ…

第二百三十九段

■ 原文八月十五日・九月十三日は、婁宿なり。この宿、清明なる故に、月を翫ぶに良夜とす。 ■ 注釈1 婁宿 ・古代中国の天文学で、黄道に近い二十八星座を基準に月や太陽の位置を示した。これを二十八宿と呼び、「婁宿」は、その一つ。参照:婁宿 - Wikipedia…

第二百三十七段

■ 原文柳筥に据うる物は、縦様・横様、物によるべきにや。「巻物などは、縦様に置きて、木の間より紙ひねりを通して、結い附く。硯も、縦様に置きたる、筆転ばず、よし」と、三条右大臣殿仰せられき。 勘解由小路の家の能書の人々は、仮にも縦様に置かるゝ事…

第二百三十六段

■ 原文丹波に出雲と云ふ所あり。大社を移して、めでたく造れり。しだの某とかやしる所なれば、秋の比、聖海上人、その他も人数多誘ひて、「いざ給へ、出雲拝みに。かいもちひ召させん」とて具しもて行きたるに、各々拝みて、ゆゝしく信起したり。御前なる獅…

第二百三十五段

■ 原文主ある家には、すゞろなる人、心のまゝに入り来る事なし。主なき所には、道行人濫りに立ち入り、狐・梟やうの物も、人気に塞かれねば、所得顔に入り棲み、木霊など云ふ、けしからぬ形も現はるゝものなり。また、鏡には、色・像なき故に、万の影来りて…

第二百三十四段

■ 原文人の、物を問ひたるに、知らずしもあらじ、ありのまゝに言はんはをこがましとにや、心惑はすやうに返事したる、よからぬ事なり。知りたる事も、なほさだかにと思ひてや問ふらん。また、まことに知らぬ人も、などかなからん。うらゝかに言ひ聞かせたら…

第二百三十三段

■ 原文万の咎あらじと思はば、何事にもまことありて、人を分かず、うやうやしく、言葉少からんには如かじ。男女・老少、皆、さる人こそよけれども、殊に、若く、かたちよき人の、言うるはしきは、忘れ難く、思ひつかるゝものなり。万の咎は、馴れたるさまに…

第二百三十二段

■ 原文すべて、人は、無智・無能なるべきものなり。或人の子の、見ざまなど悪しからぬが、父の前にて、人と物言ふとて、史書の文を引きたりし、賢しくは聞えしかども、尊者の前にてはさらずともと覚えしなり。また、或人の許にて、琵琶法師の物語を聞かんと…

第二百三十一段

■ 原文園の別当入道は、さうなき庖丁者なり。或人の許にて、いみじき鯉を出だしたりければ、皆人、別当入道の庖丁を見ばやと思へども、たやすくうち出でんもいかゞとためらひけるを、別当入道、さる人にて、「この程、百日の鯉を切り侍るを、今日欠き侍るべ…

第二百三十段

■ 原文五条内裏には、妖物ありけり。藤大納言殿語られ侍りしは、殿上人ども、黒戸にて碁を打ちけるに、御簾を掲げて見るものあり。「誰そ」と見向きたれば、狐、人のやうについゐて、さし覗きたるを、「あれ狐よ」とどよまれて、惑ひ逃げにけり。未練の狐、…

第二百二十九段

■ 原文よき細工は、少し鈍き刀を使ふと言ふ。妙観が刀はいたく立たず。 ■ 注釈1 妙観(めうくわん) ・大阪府箕面市にある勝尾寺の観音像と四天王像を彫刻した僧。参照:勝尾寺 - Wikipedia ■ 現代語訳名匠は少々切れ味の悪い小刀を使うという。妙観が観音…

第二百二十八段

■ 原文千本の釈迦念仏は、文永の比、如輪上人、これを始められけり。 ■ 注釈1 千本 ・京都市上京区千本にある瑞応山大報恩寺。通称千本釈迦堂。参照:大報恩寺 - Wikipedia2 釈迦念仏 ・「南無釈迦牟尼仏」と、釈尊の名号を唱えて菩提を祈願する念仏。二月…